エスプラン 塩田 悠樹
築きあげた歴史と新たな時代。美しく融合し進化していく店
神奈川県横浜市、鶴見駅から徒歩5分ほどの場所に江戸時代から続く老舗のパン屋、エスプランがある。紺色の暖簾には、大きく〝覇〟という一文字が描かれ、和のテイストを取り入れた趣深い外観だ。暖簾をくぐると美しくパンが並ぶショーケースを前に、地元のお客様が入れ替わり立ち替わりパンを眺める姿があった。
1679年(延宝7年)創業当時、エスプランは、覇王樹茶屋(さぼてんちゃや)という名のお茶屋さんだったそうだ。当時は鶴見川を渡る商人達の憩いの場として盛え、坂本龍馬や、宮本武蔵といった歴史上の人物も立ち寄ったという。時代の流れとともにお店の形や店名を変えて1952年に今のエスプランという店名になった。暖簾に描かれた〝覇〟という文字は、創業当時の店名の一字を表している。今回はエスプラン三代目社長、塩田悠樹さんにこれまでの経緯やこだわりなど、幅広くお話を伺った。
エスプランという店名になった当時は、洋菓子とパンを作る喫茶店だったという。先代である塩田さんのお父さんが、パン屋として一本化を図り今の形になった。3年前、代替わりという形で塩田さんが社長を務めることになり、2022年9月に店内を全面的にリニューアルしたという。
長い歴史を持つエスプランの起源、覇王樹茶屋を復活させたい。そんな思いから、塩田さんは和を基調としたモダンな雰囲気となるよう店内を改装した。中でも目を引くのは、お店の奥の畳でできた小上がりだ。まるで茶屋でゆったりくつろぐように敷かれた畳のスペースは、休日は常にお客様で埋まってしまう。江戸時代の商人たちが旅の疲れを癒したように、お客様には日々の忙しさを忘れ、のんびりしてほしいという思いから、店内には時計を置いていない。さらに、この地に根付くエスプランの歴史を感じられるように、覇王樹茶屋の〝覇〟の文字をモチーフにしたロゴマークや畳を店内に採用するなどこだわりが詰まっている。
もうひとつ大きな変化といえば、パンの販売方法を対面販売式に変えたことだ。もともとは平積みされたパンをお客様がトレイに乗せるスタイルだったが、コロナの影響もありショーケースでの対面販売に切り替えた。一見効率が悪いように思えるが、お客様一人一人にスタッフがお声がけしたり、おすすめの商品を尋ねるお客様と会話が弾んだりと、店内は常に賑やかだ。時にはパンのリクエストなどをいただくこともあり、この販売方法がお客様との距離をぐっと近づけてくれたと塩田さんは話す。
変わらずに愛され続ける先代が作り上げたお店の顔
時代の流れに伴い、お店の形態を柔軟に変えてきたエスプランだが、もちろん変わることばかりが美徳ではない。変わらずに愛され続ける理由として、お店の看板商品がある。
1日300個以上売り上げるという『珈琲あんぱん』は、職人気質だった先代が、研究を重ねて出来上がったもので、2009年に見事、東京都のパンのコンテストで賞を受賞し、その人気は不動のものとなった。また、その対となる存在の『ずんだあんぱん』は、忙しい両親に代わり、可愛がってくれていた祖母宅で食べたずんだをヒントに、塩田さんが先代に提案し商品化につながったという思い出の詰まった一品だ。そのほかにもエスプランには10種類もの食パンのラインナップがあり、それぞれに根強いファンがいる。これら看板商品は、この先も変わらずに守っていきたいと塩田さんは語った。
3代目の改革、そして研究と根拠を求めて導いたこだわり
より洗練されたブランディングを目指すため、塩田さんの代から商品ラインナップも変えた。まず定番の揚げカレーパンをはじめとする揚げ物をやめたというから驚きだ。元茶屋というバックグラウンドを大切にして、お茶と一緒に楽しむようなイメージのパンを置きたいと考えたからだ。揚げカレーパンはお客様からの人気も高く、そんな商品を外すことは大きな決断だった。しかし、塩田さんは…………(続く)
エスプラン
●所在地:神奈川県横浜市鶴見区鶴見中央4-1-7
●立地:JR線「鶴見」駅から徒歩3分 または京急線「鶴見」駅から徒歩1分
●開業年:1952年
●定休日:日曜・月曜
●従業員:8人(販売4人・製造4人)
●営業面積:50坪(売場38坪・工場12坪)
●客単価:平日1000円/休日1400円
●オーブン台数:2台
●ミキサー台数:2台
●パンの種類:80~90種類(生地10種類)
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