ピーターパン 横手 和彦シェフ
ベーカリーパートナー23号 シェフインタビュー
よこて かずひこ
1943年7月10日生まれ72歳。広島県大崎下島のミカン農家に生まれる。社会人生活を経て、1978年、35歳のときにピーターパン1号店を開店。その後宅配ピザ業務も成功させるが、55歳の時に宅配ピザ業務を社員に任せ、パン屋に一本化。現在、千葉県に6店舗を展開して2015年11月15日にはメロンパンの一日の最大販売数9749個のギネス記録も達成。年間来客数は約200万人。利用者は「ピーターパンがあるからこの街に住む」と言うほどで、マスコミに取り上げられることも多い。(『カンブリア宮殿』『ニュースWBS』等)パン業界はもちろん、日本屈指の経営者の一人である。
娘の将来を考え
30代半ばにして一大決心
大学卒業後、愛媛の信用金庫で働きましたが、24歳で独立しようと高度成長期の東京に上京しました。西麻布でスナックを始め、運よく店は繁盛しました。結婚し、子供も出来ました。ある日妻が寝込んだので、3歳の娘を仕事場であるスナックに連れて行ったんです。酒を飲みながら接客する私の姿を見た娘が、「パパ、仕事してないじゃない!」と一言。ショックでした。この子の将来を考えるとこのままでは良くないと考え「働いている姿を見せられる昼間の仕事をしよう!」と決断し、知り合いのパン屋さんで修行することを決めたのがパンとの出会いです。
製パン技術がない。
武器は"焼きたて"
修行先のパン屋さんでは、3年の修行を予定していたのですが、「お前ならできる。足りないところは開店してから覚えればいい」と背中を押され、私は8个月の見習い修行だけでピーターパンを開業しました。開業するにあたり、私は「お客様が豊かになって、働いている社員が仕事を楽しめ、最低限の生活ができればよい。後継者ができればなお良い」と考えていました。しかしパンの知識も浅く、窯の経験しかありませんでしたから製パン技術も未熟で、お恥ずかしながら仕込みもわからない有様でした。焼成量に合わせて窯の温度調整をすることも知らず……今でこそ笑い話ですが食パンが焼き上がった時にショックを入れていたら、パートさんが「かわいそうですね」と言うもんだから、真に受けてそっと取り出して腰折れした食パンを陳列していました。
この通り非常に未熟だったので、私なりにこだわったことが2つあります。ひとつは焼きたてです。焼きたてなら売れる時代でしたから、食パンは朝・昼・昼過ぎ・夕方と一日に4回焼いていました。また、菓子パン生地においては半分をそのまま焼き、もう半分を冷蔵庫で保管して、焼くタイミングを調整していました。知らず知らず、低温長時間発酵のようなことをしていたんです︵笑︶。もうひとつ、あんこ・カスタードクリーム・カレーフィリングは手作りにこだわりました。このおかげでなんとか日商8万円、10万円、12万円と徐々に軌道に乗っていきました。
社員が豊かで幸せな人生
を送る為にできること
開業する際、修業先のお店で知り合った高校3年生の男の子を「卒業したらウチに来いよ!」と誘ったところ、オープン当初からお店で働いてくれました。ですが、2年で退社してそれからまた2年後に再度ここで働きたいと言ってきたんです。その当時の売り上げは日商15万円程度。社員採用するともちろん利益を圧迫しますから、「給与目的なのか、それとも僕と一緒に生涯設計をしてくれるのか」と尋ねました。後者を選んでくれた彼に、豊かで幸せな人生を送ってもらう為には店長にするしかないと考え、そこを任せ2店舗目を作ることにしました。
2店舗目を作った時に妻の甥っ子を受け入れることになり、店長という役職を与えました。ですが、私がいるからか控えめで、その働きっぷりには物足りなさを感じていました。そんな時、私が親知らずの治療で2週間入院することになり、現場から離れることになったのです。入院生活を終えて復帰してみると、あの甥っ子が鬼気迫る勢いでリーダーシップを発揮して店長らしく仕事しているではありませんか。その姿を見て、これは余計なことは言わずに、彼の可能性を信じよう!私がいなくても回るし、ここに私はいらないなと考え、3店舗目を開店しました。
ここまでは両店長が私の右腕として活躍してくれたので3店舗目までは上手くいきました。
経営理念は
一日にして成らず。
4店舗目で悪戦苦闘しているとき、サイゼリヤの正垣泰彦さんと出会い、そのお考えに共感して理念は必要だと私も考えるようになりました。そして経営理念を制定しようと考えたのですが、一発目から素晴らしいものが出来るはずもなく……最初は他社さんの経営理念をそっくり真似させて頂きました。当然理念の浸透は出来ません。2000年と2003年に半年ずつ経営理念の勉強に行き、経営理念の冊子を作りました。毎年ブラッシュアップさせながら、社員はもちろんパートさんに至るまで配布し、理念の浸透に努めています。この冊子の文言については相当悩み、吟味しています。
トップは経営理念を身体
の一部にして伝道させよ
トップは経営理念の伝道者であり、覚えて実行することが大事です。言えないということはあってはなりません。また、この冊子が出来てから見える化ができるようになり、迷うときがあれば原点回帰の助けになりますし、判断の拠り所になります。これによって考えがブレなくなりました。
そしてこの20ページの冊子をそらんじて言えるようになった時、会社が良くなったと肌で感じました。
またピーターパンの経営理念はエピソードも添えられていてイメージしやすい作りになっています。面接の時に「経営理念の何に共感したの?」と聞くようにしているのですが、どういうところに共感する人なのかわかります。
経営理念にはピーターパンで働くスタッフのあるべき姿が詰まっています。一人で頑張るより、経営理念を通して伝道者や賛同者を一人でも多くつくり、一人の百歩より百人皆が足を揃えて踏み出す一歩の方がとても価値があると考えています。
豊かさの循環と
経営理念の共感
お客様が豊かになると社員が豊かになり、最後に会社が豊かになる。そして会社はお客様に新たな豊かさを提供する。この豊かさの循環が組織を強くしていくと考えています。これを軌道に乗せるまでは・・・・・
続きはベーカリーパートナー23号>>